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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)1249号 判決

主文

理由

上告代理人堀場正直、同堀場直道の上告理由について。

本件相殺の受働債権たる本訴請求債権は、手形債務者たる訴外キヨ貿易株式会社が不渡届に対する異議申立手続を被上告人に委託し、右手続に要する異議申立提供金に見合う資金として被上告人に交付した預託金の返還請求権であるところ、論旨は、このような請求権につき、被上告人は、訴外会社に対する反対債権をもつてする相殺により債務を免れうる正当な期待を有するものではないから、相殺をもつて上告人に対抗することをえないものであると主張する趣旨に解される。しかし、手形債権者は、右預託金返還請求権について、自己の債権の優先弁済に充てられるべきことを主張しうる地位を当然に有するものではなく、支払銀行が右債権の差押前から手形債務者に対して有する反対債権をもつて右預託金返還債務と相殺することが、右債務の性質上、手形債権者との関係において制限されるものではないことは、当裁判所の判例とするところであり(最高裁昭和四三年(オ)第七七八号同四五年六月一八日第一小法廷判決、民集二四巻六号五二七頁参照)、本件預託金返還請求権に対する上告人の仮差押の前に発生しかつ弁済期の到来していた被上告人の反対債権を自働債権として、右仮差押後になされた本件相殺の効力を妨げる理由は、なんら存しないことが明らかである。したがつて、本件相殺を有効とした原判決の判断は正当であつて、これに所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

(裁判長裁判官 小川信雄 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一 裁判官 岡原昌男)

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